これはロシアの作家のトルストイが書いた「戦争と平和」という本の後ろの方に出てくる言葉です。
ピエールという登場人物が、こういうことを言っています。
「一切の不幸せ、人間にとっての不幸は、不足から生ずるのではなく、有り余るところから生ずるのだ」なんでも欲しいものが手に入る。自分の求めたものがなんでも手に入ると、「自分は幸せだ」と思い込みます。
ところが、そうではない。
なんでも手に入ることは、実は不幸せなことなのだとトルストイは言っているのです。
私も疎開を経験するまでは、欲しいものがすぐになんでも手に入ることを幸せだと思っていました。しかし、いまになって振り返って考えてみますと、あのままでは私は、刑務所に入るようなとんでもない人間になっていたかもしれない。しかし、疎開をして、ありがたいことに何もない環境の中に置かれた。欲しいものどころか、その日その日を生きるのに必要最低限のものしかない生活を送ることになりました。
そのような、いつも不足している、物不足の生活に陥ったときにはじめて、私は両親に対する感謝の気持ちが湧いてきた。
世の中を生きていくというのは大変なものだ、ということに気づいたのです。
このように本当に幸せというのは、厳しいルールがありながら、そのルールを自分がいつも受け入れて、やがてルールがあることさえ気がつかなくなったときにやってくるものです。
そのときはじめて、本当に幸せになれる。
そしてもう一つは・・
「友達がみんな持っているけれど、自分は我慢しよう」というふうに思った時に、はじめて本当の幸せというものが大きく感じるようになるのです。
だから、持っていない、足りないというのは、とてもありがたいことなのです。
鍵山秀三郎:経営者